前回のおさらいと今回の舞台
えー、前回の「土方バイト編」では、大学生最初の夏に汗と埃で自分をマリネし、夜はクラウンマジェスタでカーナンパ。結果は札束より職質、栄光より親父のガッカリ顔。これが結末でありました。
そこで私は学んだのです。泥臭い現場で心が強くなるわけではなく、単に鼻が鍛えられるのだと。ならば次は華やかな場所で鼻以外を鍛えよう——そう思って応募したのが、地元のテーマパークの短期バイトでした。肩書きだけで自分の株価が二割上がるという壮大な勘違いを胸に。
配置と役目——アテンダーの現場
配属はフィールドスタッフ。看板キャラクターのアテンダーが主担当でした。着ぐるみの中の人は視界が狭い。私は進路と安全の確保、つまり「夢の国の交通整理」。終われば控室で着替えの手伝い。舞台はきらびやか、仕事内容は汗だく。ギャップで目がチカチカ、給料はチラチラ。
控室の錯覚、そして現実の匂い
中の人は小柄な若い女性。炎天下のパレード明け、着ぐるみの下は——はっきりとは覚えていませんが、下着だったと思います。最初は視線を逸らしてファスナーを下ろしていましたが、周囲のお姉さま方から「見てもいいんだよ〜」の揺さぶり。脳内は完全に女子更衣室。しかし現実は汗の湯気で視界ゼロ。青春のきらめきは、匂いで全滅しました。
つまり、心は揺れども体は微動だにせず。だって汗臭いんですもの。ここで私のロマンは、熱と湿度により蒸発したのであります。
倉庫での青春は段ボールの香りとともに
閉園後は備品の片付けが日課でした。貴重な男手だった私は、倉庫で女性スタッフと二人きりになる場面がよくありました。会話は「今日も暑かったね」から始まり、シフトの悩みや上司のグチへ自然に広がります。
ここで効いたのが、聞き役に徹すること。うなずく、要点をそっと言い換える、最後に軽い冗談で落とす——それだけで空気がやわらぎ、作業スピードが二割増し。気づけば意気投合し、退勤後一緒に遊びに出かけ、その先でいい思いをしたことも何度かありました。今にして思えば、私の社交スキルは段ボールではなく傾聴で鍛えられ、物怖じしないところはカーナンパの経験が図らずも活きていたのでしょう。人間、無駄な経験というものは、意外とありません。
写真撮影は一発勝負——オートフォーカス頼み
園内では「写真お願いします」と頼まれまくり。ところが当時はカメラ付き携帯もデジカメも一般的ではなく、出来栄えは現像まで不明のガチャ仕様。私は今よりは見えていたので枠には入れられる。が、ピントは自信ゼロ。オートフォーカスに祈祷、私はただの三脚。お客様の笑顔は満点、ピントは運任せ。思い出がブレていたら、それは私ではなく時代のせいであります(半分くらいは)。
髪色オレンジと小さな反逆
ある日スーパーバイザーに髪色を注意されました。茶色がかったオレンジ。私は夏休み限定の鎧を着て、静かな不服従。最後までスルーして逃げ切り。得たものは自由と自己満足、失ったものは評価と常識。若さというのは、コスパの悪い燃料です。
交通費と慰留、そして「必要とされる」実感
実家から遠く、交通費には上限。超えた分は自腹。財布は常に夏バテ。それでも続けていた私に、退職の旨を伝えたとき、あのスーパーバイザーが慰留してくれました。「交通費は全額出すから続けないか」。大学の夏休みは短く、講義再開も早い。物理的に無理と伝えると、残念そうにうなずく彼。
土方では「軍手ごと使い捨て」の気分でしたが、ここでは初めて「必要とされる」感覚を味わいました。あの一言で、交通費の自腹が急に安い授業料に思えたのだから、人間は単純です。
総括
夢の国の袖で、私は安全誘導に手を伸ばし、控室でファスナーを下ろし、倉庫で傾聴を武器にし、写真撮影ではオートフォーカスに祈り、髪色では小さく反抗しました。最後に「必要だ」と言われた一言だけが、今も胸ポケットで光っています。汗と羞恥と少々の承認欲求——私の夏は、だいたいこの三本柱でできているのであります。
次回予告
えー、次回は所属大学でサーモグラフィーを用いて喫煙前後の体表温度の変化を観察する実験に有償で協力した経験、さらに所謂治験バイトの体験談を、いつも通り自虐多めでお届けする所存であります。感想・質問はコメント欄へ。皆さまのツッコミこそ、次回の恥の燃料であります。

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